終りの前に、いくつか他の技法について

 

 

 
 掻き取り画法 

 子供の頃クレパスを使って、きれいな色を塗った上から黒を塗って、それを掻き取って下地のきれいな色を出して絵にする、ということをしませんでしたか。これと同じように、切れないナイフの刃先やヘラのようなもので掻き取って、白い光った部分をだしたり細い明るい線を掻きだしたりする方法です。
 でもこれを本格的にしたい時にはしっかりした下地が必要です。
強い滑らかな紙か、下地を絵画用の地塗剤(gessoなど)で作ったうえで軟らかめのエンピツでしっかりと描きこみながら使うのに良い方法です。


 白いエンピツを使う
 
 絵の具の場合には白を混ぜることが出来ますが、色エンピツでは白を混ぜてもほとんど効果のないことにもう気づいていると思います。 でも、この白エンピツもとても役にたつのです。例えば、消しゴムの「消し描き」ほどのハイライトではなく、やわらかく光った感じを出したりする時に、上から白を強く塗ったり、最初にしっかりとその部分に白を塗っておいたりして感じを出すことが出来ます。また前述の掻き取り技法の時の簡単な下地としても使うことが出来ます。

 
 水彩画風ということについて

 ここでは取り上げませんでしたが、いろんな絵を描きだすうちに、ちょっと、この部分だけ水彩の調子にしたいということがあるかもしれません。水彩絵の具を一緒に使うと、油性色エンピツの場合はそれが優れた点でもあるのですが、描いた部分をほとんど傷めずに、えのぐをうっすらと乗せたりも出来るのです。
 でも線の部分も含めてぼかしたい時などは、最近では油性エンピツ用のぼかし液というのを売っています。石油系のものなら溶かすことが出来るわけですが、専用のものは紙に染みを残すことのないような配慮もされているようです。
 いずれにしても大切な絵に使う時はどんなものでも一度その効果などを試してからにしたいものです。
 水彩色エンピツについては、この講座の冒頭の『色エンピツのいろいろ』に書いていますので参照してください。




   サインについて

 良い絵のできた時、額に入れる場合にはサインがほしいものです。いろんな絵を見る機会のある時には、サインも一緒に見てください。サインにはなんだか作者の品格が出るような気がしています。またスケッチの時と重い絵の時とでは似合うサインも少し違う気がします。どんな時にも一つのサインで、とてもうまくおさまっているサインの出来る方もあり、素晴らしいと思うのですが、私などは絵の種類(例えば、銅版画、水彩画など)によって 3種類くらいの形ができてしまいます。ともかくカッコつけないで丁寧に書くのが良いようにおもいます。

 夢コレクションを作る――感想ノート

 自分のテーマが決まってきたらなおのことですが、「描きたいナ」と思ったものをスケッチしてみた時にそれと一緒に感想ノートを日付入りで書いておくことをおすすめします。「絵日記」のようにしても良いのですが、絵の方には日付とサインだけにして、別のノートにする方が良いと思いますが。
 私は一時期、試行錯誤しながら仕事をしている時、一作ごとに言わば分析(!)のためにノートをつけていました。それは自分自身のしていることを客観的に観て方向を探るためでしたが、後になるとその時間が甦る楽しく大切なノートになりました。


 旅先のスケッチのこと

 私は沢山旅行をしてきたのに、旅行にふさわしい絵の描き方を充分にしてこなかったような気がして今になって残念な気がしています。
 旅をして一番つまらないのは(これは、私はしていませんが)絵葉書と同じ風景を描いてくる方があることです。たとえ同じ風景を目の前にしても、自分がその時に感じている音や匂いを描きたいものです。だから頑張らずそんな風景は絵葉書にまかせて、自分の発見したものを、窓辺の飾りでも、ホテルのキーでも、自分の旅の時間をファイルするつもりで描いておくことをおすすめしたいのです。
 それにレストランの素敵なコショー容れくらいなら、コーヒーを飲みながらでも描けてしまうでしょう。もっとも、コーヒーを飲みながらは、おしゃべりしながら、通りを行く人々を眺めて過ごす方が良いですね。
       

  
 あとがき――私と色エンピツのこと

 その色エンピツは12色が丁度小さなポケットに入ってしまう位の大きさの、ビニールケース入りのセットでした。持つのにはちょつとたよりない細さと短さですが、小さなメモ帳や消しゴムと一緒に並んで売られていました。
 所は南フランス、ニースの dame de france(ダム ドゥ フランス)百貨店の文房具売り場。これと、やはり小さなノートを買ったのは、もう20年程前のことです。これが私の色エンピツとの二度目の出会いと言えるかもしれません。

 最初の出会いはまだ学校に上がる前でしたでしょう。私の初めての絵――多分、初めて自分の気に入った絵――を想いだします。それは帽子を被った女の子/私/が丘の上に座っていて、下の方にはいろんなお店屋さんが並んでいる絵です。 色エンピツもクレパスも、きっと今から思うと随分と粗雑なものだったに違いありません。でもその12程の色は限りなく広い世界につながっていたのだと思います。
 当時の色鉛筆は削ってもその芯がすぐに折れてしまって、だから好きな色はすぐに短くなってしまうのでした。あの、芯のところが木の中の方から折れてしまう時の悲しい気分のせいかどうかわかりませんが、大きくなるにつれ、いつのまにか色鉛筆で描くことはなくなっていきました。
 絵を描くことが仕事になって10年余り、あらゆる画材が増えていくなかでも、色エンピツはほとんど持っていませんでした。時折、何十色もの美しいセットなどを見ると、ほしいなぁ、と思いながらでも、使えないのがこわくて買いませんでした。そして、長い休暇と称して南フランスで暮らし始めた時に、dame de franceで可愛い色エンピツをなんとなく買ったのです。
 仕事として10年以上(その時点で)絵を描いてきていたのに、目的のある、注文によって描く絵(イラストレーションや壁画など)を描いてきていた私は、美しい南仏の風景を目の前にしながら自分の絵が出来てこないまま、グァッシュ(不透明水彩)で試行錯誤しながら描く毎日でした。思うように描けないときに、目の前の小さなものをその色エンピツでスケッチしておくのは、心休まる楽しい時間でした。

 それは次に、小旅行に出る時には、ホテルの部屋やレストランで描く時の画材にもなり、さらに画材屋さんをのぞくごとに、ちゃんとした大きさのですが、バラで色エンピツを買ったりしているうちに、グァッシュと同時に大きなものも描いてみるようになりました。今手元に残る絵をみるとその、それぞれの場所の時間や空気が戻って来る気がします。
 
      

 色エンピツで本格的な素晴らしい絵を描いている方もあるようですが、私は、今、その時の気分が逃げてしまわないうちに、日記のように描く時のものとして色エンピツを使っています。
                          (1999年春 記述)





    あらためてHP上での講座についてのあとがき

 《あとがき》をUPしていて、あらためて時間の経つ速さにびっくりしています。この限定本を作ってからでも、10年経っています。この《あとがき》の中で述べていますフランス滞在に至っては30年前の話になるのだと、我ながらおかしくて笑ってしまいました。でもここに登場した数々の絵のほとんどは、そんなに古いものではありませんょ。(^_^;)

 実際の開講中はテーマにそって、出来るだけ毎回新しいものを用意しました。毎月2回の5年間でしたので、沢山の絵がたまりました。最初から最後まで参加してくださった生徒さん方のもとにも、それだけのコレクションが出来ていることになります。持続というのはすごいことですね。

 私は自身の展覧会などで発表するものは、ほとんどグァッシュやアクリルの非具象、油性の銅版画、立体etc.なのです。ですから、この色エンピツ画は限られた生徒さん方にしか見ていただく機会が無かったものでした。
今回のこの機会に見ていただけて良かったと思っています。実のところは、どれ位の方に見ていただいたかもわかりませんが、これを通して、お一人でも描いてみようかな、とでも思ってくださったらうれしい、と思っています。

 ありがとうございました。

                     2009年春     瑠璃風


          

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